【研究トピックス】 東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 製紙科学研究室(1)
大長 一帆、齋藤 継之
【ナノセルロース関連の研究テーマ名】
- CNF 構造の精密解析
- CNF 表面修飾と機能展開
- 透明断熱性 CNF 多孔体の開発
- 透明 CNF シートのナノ構造制御と機能展開
- 透明 CNF/樹脂複合材料の界面構造制御
- コアシェル型 CNF 複合材料の機能展開
- CNF の乳化機構解析
【最近の研究成果】 ナノセルロースの結晶性解析
低炭素社会の実現において、バイオマスの高度利用が急務とされており、木材利用における次世代素材としてセルロースナノファイバー(CNF)に大きな期待が寄せられている。2014 年、内閣の日本再興戦略において CNF の利用推進が提言され、今では産官学の連携体制も整い、住環境や自動車などの構造材から食品や化粧品・日用品における機能材に至るまで、実に多用途で実用化に向けた研究開発が進められている。
セルロースは、樹木の細胞壁中で「ミクロフィブリル」と呼ばれる結晶性の構造単位を形成している。CNF とは、細胞壁(木材パルプ)をミクロフィブリル単位または微細なミクロフィブリル束にまで解きほぐした新素材である。近年は CNF の生産プロセス開発が著しく進展し、CNF の形態や分散性が多様化している。解繊前にパルプを化学的に改質し、ミクロフィブリルの結束を解きほぐし易くすることも一般化してきた。代表的な改質法として、パルプに保水性を付与するTEMPO 酸化などが挙げられる。しかし、依然として CNF の実用化は極めて限定的であり、いくつかの本質的な課題も浮き彫りになってきた。このような背景には CNF が多様化するのに対し、CNF 構造の理解が著しく遅れている状況がある。高弾性率・高熱伝導率・高誘電率などの優れた CNF特性は、セルロースの結晶性に由来する[1,2]。すなわち、CNF の結晶性に係わる精密構造の理解は急務である。
本研究では、組成や形状、表面特性が異なる CNF を調製し、得られた CNF の結晶化度(NMR 法)や結晶サイズ(XRD 法)を網羅的に解析した。 その結果、CNF の結晶性を支配する本質的な因子は「分散」であることが明らかとなった。パルプの粉砕が進み、CNF の分散性が高まるほど結晶性(結晶化度や結晶サイズ)は低下しており、ミクロフィブリル束の会合面が表出することが要因と考察した(図 A)。
ミクロフィブリル単位に解きほぐれた CNF の形状解析(原子間力顕微鏡観察および光散乱法)より、CNF1本は 18 本の分子鎖で構成されるモデルが適当であると結論した。このモデルに基づいて CNF 構造を解釈すると、NMR 解析は表面分子鎖を構成する炭素原子の立体配座は非晶性であミクロフィブリル束“結束した” ミクロフィブリルの表面 結晶性“表出した” ミクロフィブリルの表面非晶化高 結晶性 低A) CNFの分散性 と 結晶性 の相関B) CNF1本の18本鎖モデル表面 12本: 非晶性内部 3~4本: 結晶性炭素原子の立体配座パルプの粉砕 太い 細い低分散 高分散表面/内部に 差異なく規則的分子鎖の積層研究最前線シリーズ(16)ることを示唆する一方、XRD の解析は分子鎖の積層は表面まで規則的であることを示唆している(図 B)[3]。
[1] Saito et al. Biomacromolecules 2013. [2] Uetani et al. Biomacromolecules 2015. [3] Daicho et al. ACS Applied Nano Mater. 2018, Open access.
【問い合わせ先】
e-mail : kdaicho@ g.ecc.u-tokyo.ac.jp (大長), saitot@g.ecc.u-tokyo.ac.jp (齋藤)